新しく事業を始める場合に「個人事業」として事業を始める方法と「法人を設立」して事業を始める方法があります。

「資本金」が1円でも法人の設立が出来るようなったため、以前と比べて最初から「法人を設立して事業を」と考えている人も多いように思います。
(実際に「資本金1円」で事業が成り立つかどうかは別ですが・・・)

「個人事業」「法人の設立」どちらがいいのかは、ケースバイケースだと思いますが、「個人事業」「法人の設立」の税務的な違いなどについて見てみましょう。

≪利益に対する課税について≫

「個人事業」の場合
個人事業では、1月1日から12月31日までの一年間を一つの期間として「収入」と「必要経費」の計算をします。
自分に対する「給料」という考えではなく、「収入-必要経費」が自分の「事業所得」となります。
この「事業所得」とほかの所得(給料や年金、保険の満期、配当などなど)がある場合には合算をし、2月16日から3月15日までに「確定申告」をして所得税を納めることになります。また、6月ごろに市役所から「住民税」の納付書が届き、8月ごろに「個人事業税」の納付書が届きます。

「法人」の場合
法人では会社で定めた一年以内の事業年度を一の期間として「益金」と「損金」の計算をします。
社長に対する給料は一定の要件を満たせば「損金」となり、個人事業での「事業所得」と比べると同じ条件なら社長の給料分の利益が減ることになります。

「益金-損金」で所得金額を計算して事業年度終了の日の翌日から2ヶ月以内に税務署に法人税、都道府県事務所に法人県民税・事業税、市町村に法人市民税の「確定申告書」を提出して納付します。
上記の社長の給料については、所得税を「源泉徴収」して会社が納税することになります。

「両者の違い」
基本的にはどちらも「売上-経費」の残りに対して課税されますが、
個人事業では「所得税+住民税+事業税」
法人では ・法人での課税 「法人税+法人県民税・法人事業税+法人市民税」
・個人での課税 「所得税+住民税」
と法人と個人での両方で課税されます。

所得税は超過累進課税のため、所得が多くなると税率が高くなる(最高で45%+住民税10%)ので、ある程度の利益が見込まれる事業をする場合には、法人設立が有利になるケースが多くなります。

また、個人事業では必要経費とならない「生命保険」も契約の内容によって法人の損金とすることができ、解約まで課税がされない「含み益」をためる事も・・・
さらにその「含み益」を退職金に充てると、個人事業ではできない大きな節税をすることも可能です。

 

≪消費税の免税期間について≫

「個人事業」の場合
事業を始めた年とその翌年が免税(消費税を納めなくていい)となります。
ただし、事業を始めた年の1月1日から6月30日までの課税売上高若しくは給料の金額が1,000万円を超えると、その翌年からは消費税を納める必要があります。

「法人」の場合
通常は設立事業年度と翌事業年度が免税となります。(事業年度が一年である場合)
ただし、資本金が1,000万円以上の法人については設立事業年度から消費税の納税義務が生じます。また設立事業年度開始の日から6ヶ月間の課税売上高若しくは給料の金額が1,000万円を超えると、その翌事業年度から消費税を納める必要があります。

「両者の違い」
資本金1,000万円の法人を設立して事業をした場合には、消費税の免税の恩恵を受けることができませんし、ある程度の儲けが見込まれ自分の給与を高く設定した場合などは、資本金が1,000万円未満でも2期目から消費税が課税となる可能性もあります。
消費税については、個人事業の方が免税となるケースが多くなると思われます。
ただし、消費税は必ずしも免税の方が有利になると限らない(設備投資が多い場合や輸出をしている場合には還付となるケースもあります。)ので注意が必要です。

≪年金・健康保険について≫

「個人事業」の場合
個人事業の場合、事業主は厚生年金に加入することは出来ません。
たとえ従業員が5人以上いて、加入事業所となっている場合にも事業主は厚生年金に入れないので必然的に「国民年金」「市町村国保」へ加入することになります。

「法人」の場合
法人の場合には社会保険に加入する義務があります。
「負担が大きくなるから入りたくない。」といっても法律上は加入しなければいけません。

「両者の違い」
社会保険は給料の金額で保険料が決まります。
国民年金は一定額なので給料の金額によっては、負担額が大きく変わってきます。
また、従業員の保険料の半分も会社の負担となってきますので、年金の負担については、法人の方が大きいと言えるでしょう。
ただし、厚生年金に加入すると将来的に受給が出来る年金額も増えるので、必ずしもどちらがいいとは言えません。

『結局・・・?』

最初からある程度の売上が見込まれて利益が出てくる場合などは所得税の負担を考えると、最初から法人を設立した方がいいように思われます。
また事業を始めるにあたって、求人の必要がある場合には「個人事業」より「法人」のほうが、また「社会保険完備」の方が人を集め易いかもしれません。

法人の設立には費用もかかりますし「最初にコストをかけたくない 」「あまり利益が出るような事業ではない」と考えている場合には、最初は「個人事業」で開業をして軌道に乗ったら「法人設立」もいいかもしれませんね。

(H27.3月 担当:粕谷)