『日本政策金融公庫の調査月報 2015年7月号の調査リポート「開業費用の調達と事業計画書の作成状況の実態」-「起業と起業意識に関する調査」(2014年度)より-(※1)』によると、起業家の約8割が自己資金だけで開業しているとしつつ、一方で、適正な起業資金を不足なく調達し、創業計画書を作成することが、開業後の業績にプラスの影響を及ぼしている、としています。
そこで今回は、事業の血液ともいえる「お金=資金」について、起業時ならではの考え方の順序やポイントを挙げてみました。
1.「毎年いくらおカネが残るのか?」を計算してみよう!
起業時の必要資金について、設備投資額+運転資金を積み上げて、「いくらおカネがかかるのか?」を始めに考えるやり方もありますが、私のお勧めはまず堅実に「毎年いくらおカネが残るのか?」を計算してみることです。
これから始める事業の売上予測を行い、続いて、掛かる原価や人件費やその他固定費などを差し引いて「毎年いくらおカネが残るのか?」を計算してみましょう。
ここでは細かい各論は省きますが、売上も費用も根拠となる人数、単価、同業他社や近隣相場などをできるだけ細かく分析予測して、他人が見ても「なるほど、うんうん」と納得してもらえるように肉づけをしていきましょう。
最近では、業種ごと、規模ごとの売上・原価・経費の根拠資料をネット上から入手することができますので、そういった情報を活用するのも1つです。
2.「全部でいくらおカネがかかるのか?」を計算してみよう!
続いて考えるのは「この事業を始めるのに全部でいくらおカネがかかるのか?」です。
このおカネは「設備資金」と「運転資金」との合計金額で考えます。
「設備資金」とは・・・ 価値のある資産や、一度に費用にならず毎年少しずつ費用にしていくものに充てる資金となります。例えば、土地の購入費や賃貸テナントの敷金や保証金、建物や機械、車両の購入費がこれに該当します。
「運転資金」とは・・・ 最初に売上が入金されるまでに支払わなくてはいけない仕入代金、人件費、その他経費と考えるといいでしょう。
さて、上記1.→ 2.と考えてきて、続いて、3.へと行きたいところですが、ここでもう一度、上記1.→ 2.を繰り返して、ガリガリ計算しなおしてみましょう。
これがいわゆる「創業計画書」の基礎となります。
1度きりの計算をしてみて「うんうん、予定通り」という方は少ないはずです。
思ったよりも「毎年残るおカネが少ないなぁ・・」「けっこう総額が大きくなるなぁ・・」と感じる方が多いのではないでしょうか。ですが、そのように思った人の方が、より堅実に計画を起てていけると思います。
「なんとしてでも起業して成功してやろう!」と熱い気持ちをバネに、是非、この1.→ 2.の作業を共同経営者や創業支援機関、金融機関を巻き込んで一生懸命考えてみてください。
3.自己資金はいくら用意すればいい?
おカネの予算総額が決まったら、そのうちいくらを自分で用意するか(すべきか)を検討しましょう。
いろいろなケースがあるので、ケースバイケースです。と言ってしまうとここで終わってしまうので、いくつかの考え方を挙げてみましょう。
ⅰ)予算総額のほぼ全額を自分で用意する
堅実派なあなたは、もう言うことなしですが、さらに万が一の予備の運転資金まで捻出できる余裕があれば、より言うことなしです。
ⅱ)予算総額の50%以上は、自分で用意する
ちょっと冒険ちょっと堅実派なあなたは、自己資金50%以上を用意しての起業を考えます。融資の種類によっては条件が「自己資金50%以上ないとだめよ」というものもあり1つの指標とも言えます。
通常、「自己資本比率が50%の会社」というと、健全性が高いと考えられていますが、起業時特有の不安定性を考慮するとできれば50%以上の資金は自分で用意して始めたいところです。
ⅲ)自分で用意ができるのは予算総額の50%未満
このケースは上記と比べるとかなりの冒険派とも言えますが、会計事務所へ相談に来られる方や金融機関から紹介される方には多いケースとも言えます。自己資金を多く用意できるケースに比べ、より「創業計画」の正確性、実行性が求められるのも確かですので、先輩や専門家のアドバイスを十分に取り入れて計画する必要があります。
以上、今回は、1.収支計画 2.投資計画 3.資金調達(自己資金)についてふれてきましたが、次回は資金調達のうち自己資金以外の調達ポイントについて整理をしてみたいと思います。
※1
(日本政策金融公庫 調査月報2015.7)http://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/tyousa_gttupou_1507.pdf
初出:クラウド円簿(2015.07.22)https://www.yenbo.jp